漢方治療について


漢方という名前は知られていますが、実際に漢方薬に触れたことのない方もおられるでしょう。

時々、漢方薬ってどんなものですか?と聞かれます。

一般的に処方される漢方薬は、大きく分けて、煎じ薬とエキス剤(写真)とに分かれます。

煎じ薬は、昔ながらの方法で、生薬を刻んだものを鍋などに入れて煎じて(お茶を30分かけて煮出す感じです)作ります。効果は高いですが、毎日のことなので、少し負担に感じられる方もいます。

エキス剤は、その煎じの部分を工場で済ませてあるお薬です。インスタントコーヒーのように顆粒状や、細粒状になっています。これをお湯に溶いて、お茶のようにして飲むこともできますし、粉のまま口に入れて、水で服用してもかまいません。

 処方には基本保険適用のものを使います。ご心配な点はお尋ねください。

煎じ薬について

反対に煎じ薬は、煮出す手間はかかるものの、メリットがたくさんあります。

一人一人の体調に合わせた完全オーダーメイドが可能であること、エキス剤では使えない多くの生薬を使用できること、そのおかげで治療が効率よく進みうることです。

当院では煎じ薬の処方(保険適用)も可能です。ご希望があれば、自費でしか使えない生薬の調合もいたします。詳しくはご相談ください。

 


漢方医学、中医学、診断について

漢方治療の歴史を遡ると、中国古代からの経験の積み重ねがあり、その集大成として紀元3世紀ごろまでに著された黄帝内経、神農本草経、傷寒論、金匱要略といった古典が、いまの漢方治療の基本になっています。

「風邪に葛根湯」として有名な葛根湯も、もとをたどればその時代から存在していた処方なのです。

このように大変古くから存在する漢方治療ですが、その後の時代の変遷、また中国と日本それぞれの歴史の中で様々な変化、進化を遂げ、まるで伝統芸能のようにいわゆる「流派」のようなものが発生しています。日本においては江戸時代の日本で主流であった日本漢方(古方)の考え方が現在も主流で、臨床的にもとても有用です。

 

一方、中国でも古典から発した医学が歴史を経て発達していきました。日本での発達と少し流れが異なり、中医学においては、陰陽五行説、経絡学説に基づき各臓腑の状態を検討し、その全体の状態を改善させるという方針をとります。近年では日本の漢方と中医学それぞれの利点を生かす立場の漢方医も増えています。

問診票に質問項目が多数あったり、脈や舌、腹部の状態を見させていただくのは、そういった体の状態の分析を行うためです。通常の医療における診察方法と全く異なるので、初めての方は驚かれますが、逆にそれぐらいしてはじめて、心身の全体像を把握できるのです。単に症状名を言葉として聞いただけでは、最適な処方を出せません。

例えば、「めまい」という症状の名前だけでは処方すべき方剤を選ぶことはできず、体の中で何がどうなって「めまい」がおきているのかを推測していく必要があります。また、「めまい」という言葉で表現されている現象も、くわしくお聞きすると人によって様々だったりします。

診察の中であれこれお聞きしたりすることに面食らう方もおられますが、探偵のようにいろいろな情報を集めることで、体の状態を探り、適した対応法を探しているのだとご理解ください。


漢方の師匠について

私(戸城)は、婦人科診療の中で日本漢方による治療を取り入れたのちに、当初中医学を独学で学び、その後師匠の故・土方康世先生について学びました。

土方先生は五行理論を臨床に取り入れ、海外に向けてもその意義を発表される一方で、複雑な病態を抱えた患者さんの状態を仔細に検討、分析し、治癒に導いておられました。

常に困り果てた人々の味方であり、そのための勉強や研究に最期まで身を削っておられた師を見習い、御遺志を継ぎたいと思っております。